米焼酎「八十里越」から新しい歴史が始まる。福島と新潟の棚田米が融合、農家こだわりの逸品。

2022.11.20

2021年から販売をスタートした米焼酎「八十里越」。福島県只見町の合同会社「ねっか」が製造を手がけています。原料は只見町と新潟県三条市下田(しただ)の棚田米を融合させたもの。ここでしか手に入らない、唯一無二の焼酎、誕生のストーリーをお届けします。

ラベルは八十里越の尾根をシルエットに、英文も入れたスタイリッシュなデザイン。

合同会社ねっか
代表 脇坂 斉弘さん Wakizaka Yoshihiro
醸造・蒸留家。合同会社ねっか代表。福島県郡山市出身1974年生まれ。ものづくりを目指し大学で建築を学ぶ。卒業後は公共工事などの現場監督に。2000年、結婚を機に120キロ離れた妻の実家のある南会津町に移住。義叔父が経営する酒蔵「花泉」で酒づくりに加わる。2016年、米農家4人とともに隣の只見町で酒蔵を立ち上げ、地元の米を使った米焼酎を醸造販売。冬はスノーボードに夢中。

米焼酎「八十里越」は、まるで日本酒のような
華やかな香りが特徴

ーー米焼酎「八十里越」のつくり方と味の特徴について教えてください。

脇坂さん: 棚田米で、しかも飯米を使っています。ですので米の風味がよく出ています。まるで吟醸酒のような香りが特徴です。

日本酒と同じように発酵させて絞り、高圧をかけて短時間で蒸留します。そのため、通常の焼酎よりも、米が発酵した時の華やかな香りがそのまま残るんです。

ーーどれくらい生産しているのですか。

脇坂さん: 2020年から米の生産と焼酎の仕込みをスタートし、3回目。新米が採れたら冬の間に仕込みます。一度に4合びんで800本製造しています。只見町内の小売店、三条の道の駅など、限定した場所で販売。なかなか売れ行きはいいですね。

米が発酵する様子。
醸造所での仕込み風景(写真提供/ねっか)

「棚田米」を共通言語にして、
地域をつなぐ道しるべとなる商品を開発。

ーー米焼酎「八十里越」開発のきっかけを教えてください。

脇坂さん: 三条市と只見・南会津町をつなぐ八十里越峠ルート開通に向けて、地域を超えて円卓会議が開かれています。5年後にただ道が抜けるのを待つだけでなく、観光を視野に入れて、まず人同士がつながろうと、交流事業が始まったんです。

私もメンバーに入って交流を重ねるうちに、三条市にある「道の駅漢学の里しただ」の元駅長・佐野英憲さんと意気投合。地域同士がつながるための、道しるべになる商品をつくろう! じゃあ焼酎をつくろう!  という話になりました。

只見町の美しい田園風景(写真提供/ねっか)

ーー棚田米にこだわっていると聞きましたが。

脇坂さん: 三条市の下田(しただ)は海から離れた地区です。先人が棚田を開墾した歴史があり、米のおいしさには定評があります。一方で「ねっか」は只見町の米農家が中心となって設立した会社で、もともと棚田の風景に思い入れがありました。そこで、棚田米を共通言語にしました。

また八十里越峠の街道は、昔から食べ物の流通を介して人々が交流してきました。米焼酎がそのつながりを復活させるランドマークになるのでは……と考えたのです。

夏の棚田風景(写真提供/ねっか)

合同会社「ねっか」の原点は、
地域の田んぼを守ること。

ーー脇坂さん自身は移住者なんですね。

脇坂さん: はい。120キロ離れた郡山市で育ちました。ものづくりがしたいというのが夢で、大学では建築の勉強をしました。でもいざ就職したら現場監督に配属され、自分のやりたいこととちょっと違うなと感じていました。

結婚を機に、2000年に南郷スキー場のある南会津町に移住しました。妻の叔父が経営する酒蔵「花泉」で働き始めました。伝統産業としてのものづくりに関われ、酒が飲めるしスノーボードができる(笑)と思ったんです。

ーーそこでは酒づくりをされていたのですか?

脇坂さん: 16年間在籍したなかで、杜氏(とうじ)として酒づくりに打ち込み、専務として営業にも携わりました。そこで気づいたことは、寒冷地の多くの酒蔵は、原料を他県から買っているということでした。以前は寒すぎてコシヒカリが育たなかったこともありました。

しかし近年温暖化が進んで、酒米を地元でつくれるのではと考え、只見町の農家に声をかけました。一緒にやってくれる農家の仲間たちと、2009年ごろから「米づくりから始める酒づくり」をスタートしました。

ーー酒米づくりに対して、農家の反応はどうでしたか。

脇坂さん: 立ち上がったのは、30代〜50歳の若手農業者たちです。高齢化で耕作放棄地が増えているため、必然的に彼らに田んぼが集まって来る状態でした。しかし飯米の収穫が同時期に集中するため、農業機械や人を調達できない。生産面積を安易には広げられなかったのです。

そこで、酒米なら収穫時期が2週間ほど後ろにずれるので、より広い田んぼを運用できると考えました。しかも、酒蔵をつくれば冬場も働け、年間を通じた雇用も生み出せます。こうして、「地域の田んぼを守るために酒米づくりに力を入れたい」と、どんどんモチベーションが上がっていったのです。

ねっかを立ち上げた農業者4人と脇坂さん(写真提供/ねっか)

地元米限定の製造免許を逆手にとって、
コラボ商品「八十里越」が誕生!

ーーなぜ焼酎だったのでしょうか。

脇坂さん: 国は日本酒づくりには新規の免許を出しません。そこで、農家のみんなが国の規制緩和策の一つ「特産品しょうちゅう製造免許」を見つけてきて、「申請しよう!」 と言い出しました。「地域の田んぼを守りたい」という熱意から、4人の農業者と合同会社「ねっか」を2016年に創設しました。

免許取得できたのは全国で5例目、福島県内では初めてでした。その免許申請には、 ざっくり3つのルールがあります。地域の特産品を原料に使うこと。最低10キロリットル・2万本以上生産すること。販売契約をとりつけ消費が確実に見込まれること。

しかも、免許がないうちに試作品をつくることは禁止されています。雲をつかむような思いで酒蔵建設をスタートするなど、準備を進めなければなりませんでした。前の酒蔵での経験や人脈が功を奏して、免許がたった半年でおりたんです。

ーーなるほど、その免許があるから八十里越を開発できたのですね?

脇坂さん: はい。「特産品しょうちゅう製造免許」は、地元只見町の米を半分以上原料として使わないといけないルールがあります。そのルールを逆手にとってうまく利用し、三条の米と只見の米を半分ずつ使えば、今回の「つながる」という目的に合致する、新しい焼酎が生まれると思い立ったんです。

ーー八十里越ルート開通を機に、これから期待することは。

脇坂さん: 只見や三条を知る人たちが、全国あちこちでこの焼酎を飲み交わし、そこに交流が生まれればいいですよね。そして、ぜひこの地に戻ってきてほしいです。

道路が開通すると、ドライブやツーリングの周遊ルートができるなあと期待してます。棚田の風景には一見の価値がありますし、秋は紅葉が本当にきれいです。そして冬はスノーボードをしながら、この焼酎をぜひ味わいに来てください! 


米焼酎 八十里越
1,980円(税込)
本格焼酎 蒸留方法 減圧蒸留
内容量 720ml
アルコール分25度
原材料名 米(国産)・米麹(国産)
※販売は地域限定です。
下記2ヶ所にお問合せください。

合同会社 ねっか
〒968-0603 福島県南会津郡只見町大字梁取字沖998
TEL 0241-72-8872
メール info@nekka.jp

企画のきっかけとなった道の駅。
米焼酎「八十里越」を販売しています
道の駅 漢学の里 しただ
〒955-0131
新潟県三条市庭月451-1
TEL 0256-47-2230

取材日/2022年10月25日
取材・撮影 ・執筆・編集/ 寺澤順子