平野歩夢選手が技を磨いた南会津のスキー場特集!(前編)

2022.02.22

金メダルの原点

多くの国民を感動の渦に巻き込んだ平野歩夢選手
小学生時代、平野選手は南会津町 南郷スキー場を練習拠点の1つとしていた。
良質なパウダースノーと地元の方々のサポートは彼の金メダル獲得に欠かせない存在であった。

今回は平野歩夢選手が通った南会津町のスキー場を前編と後編に分けて特集

前編は、南会津に魅せられた2人の「校長」が活躍するだいくらスキー場と高畑スキー場。
後編は、南会津で育った2人の地元民がマルチに活躍する南郷スキー場とたかつえスキー場の魅力をお届け。

南会津には格別のパウダースノーを提供するスキー場が4つもあるらしい?
4エリアを盛り上げる4人のアプローチ

東北地方の西の玄関口、南会津町。新幹線の駅もなければ最寄りの高速道路まで越県が必要な不便なエリア。地理的には関東地方に接してはいるものの、どうも南会津町は「奥地」を連想させるらしい。不便で奥地と言われると聞こえは良くない。
しかし、12月中旬を迎えると不思議な光景を頻繁に目にする。宇都宮、熊谷、さいたま、千葉、品川、横浜、相模原…見慣れない都市圏のナンバーを掲げた車が列をなして峠を降りてくる。どうやら南会津には極上のパウダースノーを味わえるスキー場が4つもあるそうだと、「ベタ雪」に満足できない人々がわざわざ足をのばす。

パウダースノーはそんなにも人を惹きつける?
魅力はそれだけではないのでは?と思う。

南会津町にあるのは「だいくらスキー場」「高畑スキー場」「南郷スキー場」「たかつえスキー場」。そこに関わる4人に協力を頂き、それぞれのエリアの魅力を語ってもらった。個性溢れる4エリアのアプローチをご覧あれ。


■だいくらスキー場:雪と針生に引き寄せられたスノーボーダーが語る

南会津町は田島地区を中心とした東部エリアと、南郷・伊南・舘岩地区の西部エリアに分けられる。だいくらスキー場(以下、だいくら)は南会津町の東部エリア針生地区にあり、中心地田島地区から車で約20分。そんなに中心地より離れていない…と思ったが標高は900m(会津田島駅は350m)。積雪状況はまるで異なり、同じ町内でも別世界のようだ。

「移住までしました。それだけ価値のある地域です」
話を伺ったのは、臼井裕二(うすいゆうじ)さん。2013年に神奈川県横浜市から南会津町針生地区に移住し、現在は会津高原だいくらスノーボードスクールの校長を務めている。

臼井裕二さん


臼井さんが初めてだいくらを訪れたのは2010年頃。スノーボードDVDへの出演のためである。関東近郊のスキー場をフィールドとしていた臼井さんにとって「南会津ってどこ?」という程度の認識であり、東北自動車道を利用するのも初めてだったそうだ。(南会津町は東北自動車道 西那須野塩原ICが最寄り)

だいくらでボードを走らせた時は衝撃だったという。
「なんて良い雪質なんだ…」
北海道や海外の“有名な”スキー場には何度も足を運んだことがあった臼井さんだが、雪質とロケーションも相待ってその驚きは印象深く残っているそうだ。
「なぜここが知られてないのか?天然雪が100%。この雪が締まった時のゲレンデの感触は最高」

臼井さんは、スノーボードの技術を競う大会(通称:技術選)で全国上位に名を連ねる実力者。
現役のスノーボーダーとして活躍中だ。
「だいくらは雪質だけでなく、斜度や斜面変化が多彩なバーンが多く、こんな練習に適していて高水準な条件のスキー場はなかなかない。全国大会も開催できるレベル。だいくらに来てから自分の大会の成績も安定した。」
決して大きくないスキー場だが、コンパクトでスキーやスノーボードに必要なものは全て揃っている。上級者だけでなく、初級者・ファミリーまで幅広い方々が楽しめるゲレンデレイアウトが魅力の1つである。

臼井さんは、だいくらのすぐ近くでゲストハウスを母と営む麻衣子さんと2012年に結婚し、移住を即断。
雪質が良く多雪の地域に憧れを持っていたことや、妻の麻衣子さんもスノーボードのトッププレイヤーとして活躍していたなど、臼井さんにとって様々な条件が重なり移住は必然だった。

移住してから見えただいくらの魅力もある。
だいくらの運営には多くの針生地区の「地元民」が携わっている。
「最新の施設や設備があるわけではないが、地元民の人情や温かいほっこりとした雰囲気といった地域性がスキー場にも表れている」という。レストハウスのおばちゃんや、リフト乗り場のおじちゃんの掛ける言葉は活気と共にホッとできる。だいくらはまさに「ホームゲレンデ」だ。

臼井さんはスノーボードスクールの校長として、初心者からトップレベルを目指すスノーボーダーをお客様として迎え入れている。コロナ禍で経営が厳しい時期ではあるが、多くのお客様がリピーターであり、毎週末東京から来てくれる方もいるという。
「スクールは少人数制をとり、親切・丁寧な“密度”の濃いレッスンを心掛けている。インストラクターも常に向上心を持って取り組んでいることがお客様に伝わってほしい。人(インストラクター)の魅力がスクールの自慢。プライベートレッスンの指名も増加傾向となりようやく実になった。」

最後に、臼井さんは「南会津町は東北地方の玄関口。だいくらを起点として南会津町から東北全体がスノーボードで盛り上がる『東北スノーボードライン』を作りたい。」と語り、今後はだいくらをもっとプロモーションして盛り上げることを目標として掲げてくれた。期待したい。

Profile

臼井裕二(うすいゆうじ)
1979年12月10日生まれ 神奈川県横浜市出身
スノーボードスクール以外にゲストハウス「Zmuttツムット」運営、クラフトビール醸造所「Beer Fridgeビアフリッジ」の仕込み、除雪作業にも携わる。
会津高原だいくらスノーボードスクール


だいくらスキー場

住所:福島県南会津郡南会津町針生昼滝山857-150
電話:0241-64-2121
営業:年中無休 平日8:30〜16:00 土日祝日 8:30〜16:30
シーズン:3月27日(日)まで営業
リフト料金:大人1日券 4,200円、子ども1日券 2,700円 他お得なパック有り
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■高畑スキー場:スキーへのエナジーは東北最大 会津の奥地はスキーのメッカ!

南会津町の奥の奥。
尾瀬を有する檜枝岐村とほぼ隣接する場所に、スキーへのエナジーを抑えきれない人々が集うスキーヤーのメッカ:高畑スキー場がある。南会津町の中心地から1時間ほど車を走らせる必要がある伊南地区。繰り返しになるが、伊南地区といっても本当に南会津地方の奥の奥。アクセスは良いとは決して言えない。

平成元年にオープンした高畑スキー場(以下、高畑)。
特筆すべきは、「スキーオンリー」のスキー場。スノーボードブームの波もなんのその。
時代錯誤(?)と言っては大変失礼ではあるが、信念を決して曲げない無類のスキー場である。
過去に時間や曜日、エリアなどでスキーとスノーボードを分けるスキー場は多くあったと記憶しているが、それらほぼ全てのスキー場はその様な制限はもうないだろう。
「スキーオンリー」を貫いてきた経営信念によって、高畑は関東中からスキーヤーが集まる東北最大のスキー専用エリアとなった。

「高畑のおかげで、うちの家族みんなスキー馬鹿ですよ」
と笑いながら語るのは、菅家大善(かんけひろよし)さん。スキーや高畑の魅力を語りだすと話が尽きなかった。

菅家大善さん


菅家さんは、地元 伊南地区の出身。高畑スキー学校の校長を7年前より務めている。
物心つくころにはスキーを始めており、高畑がオープンする中学生までは数百mのリフトが1本しかない伊南多々石スキー場(すでに廃線)で朝から晩までスキーに打ち込んだ。

「高畑がオープンするのは楽しみで仕方なかった」
地元の高校に進学し、野球部に所属。冬季間は高畑スキー場のパトロールを高校卒業まで務めた。その後はスキーをするために様々な仕事を経験しながら、県内2つのスキー場でスキーインストラクターやパトロールとしての実績を積み、学んだ経験を地元に還元したいと26歳の時に伊南に戻った。

高畑スキー学校のお客様の90%も関東圏からわざわざ訪れる。スキルアップへのモチベーションが高く、「スキー検定1級」よりさらにハイレベルな試験の合格を目指す方が多い。
「合格者は木製プレートに名前が書かれ、永続的にレストハウスに掲示されるんです。それを目指したいという方は多いですね。自慢や誇りになるのでしょうか。」
それだけハイレベルなお客様を迎え入れることができるスキー学校はそうそう無い。

「お客さんのスキーに対する熱量が凄いので、スタッフもその熱に押し上げられている。毎日が楽しいです!」と嬉しそうに語ってくれた。最近では隣県より78歳の男性がスキーが上手くなりたいと頻繁に来るそうだ。

高畑スキー場は、多彩なコースレイアウトも魅力の1つであるという。
上級者向けの斜面から、コブ、未圧雪のパウダーに加えて、安全に配慮した森林内を滑れるバックカントリーコースを今年から開放した。
リフト4本のみとコンパクトながら10コースもあるため、スキーレッスン時に多様なアレンジができお客様も自分も飽きることがないそうだ。

スキーヤーにより楽しんでもらうためのアイディアが高畑には数多い。
ハイスピードカメラによるスピード計測やAIによる動画撮影、スキー学校限定の写真撮影サービス、スキーファンには堪らないすでに廃刊となったスキー雑誌、スキー界のスターの写真やサインなどが並んでいる。またホームページも是非見て欲しい。「スキー道場」が開かれている。

最後に驚いたのはスキー場に「定休日」があることだ。
毎週火曜・水曜・木曜はスキー場は定休日となる。全員で休み、全員で出勤がモットーで、これを取り入れたことでスキー場のサービスの質を落とさないことに繋がったという。

高畑スキー場は本当にスキーヤーを大切にしているのだなと取材中はずっと感心していた。

Profile

菅家大善(かんけひろよし)
1974年1月28日生まれ 南会津町(旧伊南村)出身
スキー学校の常勤職員。スキー学校以外の時期は地元の「さの塗装」に弟子入りし、運動神経を活かして屋根の塗装などを請負う。娘は中学1年からスキー留学へ。
高畑スキー学校


高畑スキー場

住所:福島県南会津郡南会津町大桃一の間々20-3
電話:0241-76-2231
営業:火曜・水曜・木曜定休 8:30〜16:00
シーズン:4月3日(日)まで営業
リフト料金:大人1日券 4,300円、子ども1日券 2,600円 他お得なパック有り
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