豊かな森林は南会津町のアイデンティティ。楽しみながら林業の歴史と文化を知る「林業祭」復活!

2023.09.25

町の面積の90%以上が森林という南会津町。かつては林業が基幹産業として栄えていました。今、「木の町」を復活させようとの取り組みも本格化しています。それを象徴するのが、長らく中断していた「林業祭」の復活。2023年はバージョンアップして10月1日開催です。主催のNPO法人「みなみあいづ森林ネットワーク」代表理事の松澤瞬さんにうかがいました。

松澤 瞬 さん / Shun Matsuzawa
1988年埼玉県加須市(騎西町)生まれ。 学生時代からスポーツやアウトドア活動に取組み、北海道の大学卒業後は保健体育科の教員志望であったが南会津町での地域づくりに関わりたいと2013年に移住。 移住後は森林・林業振興のNPO法人の新規設立から事務局長として携わったのちに2019年合同会社SCOPを起業。 森林の資源・空間利用の企画提案と事業伴走型の森林経営コンサルタントとして活動。資源では「広葉樹」、空間では「ツーリズム」が近年の事業テーマ。 地域内外の企業、自治体、研究機関、移住・関係人口者等と連携した事業を積極的に展開している。

−−まず南会津町の林業について教えてください

松澤さん:今、南会津町の基幹産業は何かと聞かれて「林業」という人は多くないと思うのですが、1950年代には東北地方最大の広葉樹材の集出荷基地でした。運搬用のレールがあちこちにあり、伐採から製材・加工、家具製造と、まさに「木の町」だったのです。しかし現在、生産量はピークだった1950年代の約10%にまで激減してしまいました。

外国産の木材が主流になるなど、さまざまな要因で日本の林業は全体に衰退していきますが、福島県の場合、原発事故による木材の出荷制限や消費者からの購入回避がさらに大きな打撃となりました。

そんな状況の中、南会津町の林業に携わる人たちは、この産業自体の立て直しをしようと勉強会や研修会を重ねていました。私が移住して来た2012年は、ちょうどそのタイミングです。翌年、それまで任意の活動だったのを「みなみあいづ森林ネットワーク」としてNPO法人化し、私が事務局・事務局長を務めたのち2021年に代表理事となりました。

林野率90%以上、世界的に見ても良質な色とりどりの広葉樹林を有しているのが南会津町です。住民が誇りをもって基幹産業は林業だといえるようにしたいと考え模索しています。

松澤さん:林業は、例えば農業のように毎日食卓に載るものを作るわけではないので一般の人には見えにくいのです。まずは関心をもっていただくきっかけとして「林業祭」を復活させることにしました。

「きとね」誕生を機に林業祭を復活させたら大盛況

――復活なんですね?

松澤さん:だいぶ前から行われていましたが、業者の方々はそれぞれ大変忙しいですし、今私たちのNPOが担っているような異業種間のつなぎ役がないと継続は難しいのかなと思います。中断というか、立ち消えになって10年くらい経っていると聞いています。

――林業祭復活の具体的なきっかけがあったんですか

松澤さん:ありました。昨年、2022年の4月に「みなみあいづ森と木の情報・活動ステーション きとね」という公共施設がオープンしたことです。

スギやカラマツを構造材に、サクラ、カバ、クリなど南会津が誇る広葉樹をフローリングや家具に使い、いわば地元産木材の展示を兼ねた、誰でも利用できる施設です。設計から施工まで町内の業者が手掛けているのは言うまでもありません。

シェアオフィスがあるのが特徴で、私たちのNPOの拠点もここにあります。他にも、広い意味での林業関連業者が入居しているので、交流で新しいアイデアが生まれたり、事業で連携できる場ともなっています。

町の林業のシンボルがこの「きとね」というわけですが、2017年に林野庁の「林業成長化産業化地域創出モデル事業」のモデル地域に南会津町が選定されたことが背景にあります。林業から地域活性化を図ろうとするもので様々なアプローチがなされていますが、目に見えるシンボル的な存在が必要だということで検討され、私も企画段階から加わっています。

――その「きとね」が林業祭の会場ですね

松澤さん:せっかくシンボルを造ってもちゃんと活用されないと意味がありませんから「きとね」のPRを兼ねて林業祭を復活させたともいえます。それが昨年のことです。

――事実上の第1回目はいかがでしたか

松澤さん:初めてみたいなものですから、企画から手探りでした。ただ、業界の人たちの自己満足的なイベントにはしたくありませんでした。一般の人たちが、南会津の森や林業に興味を持つきっかけになってくれれば、という大まかな目標で行いました。

林業と一口に言っても山を守る人、伐採する人、木材を使う人などなど、さまざまな仕事があります。NPOにはそんな多業種の方々が加盟しているので、それぞれが役割を担って本領を発揮しながら、子どもたちや親子連れも楽しめるようなイベントを目指しました。

――結果はいかがでしたか

松澤さん:初めての試みですから、千人も来場者があれば万々歳というつもりでいたのですが、実際には1600人くらいの来場者があり、私たちもびっくりしました。

特に、かつての林業祭を知っている年代の方々は「林業祭にこんなに人が集まってくれるなんて」と感動していました。

最盛期の時代の林業現場を撮った衝撃の映像上映も

松澤さん:林業祭というと、木を使ったワークショップはよくあり、それも行いましたが、チェーンソーを使ってみたり薪割りをやってみたり、木材の展示方法も丸太そのままだったりと、本格的な林業体験も結構人気がありました。

――2023年の企画を教えてください

松澤さん:色々な点でバージョンアップします。まず大きなテーマを「森林」としましたので、林業だけでなくて、野生動物など多方面の活動が含まれ、鹿皮利用のワークショップなども行うことになっています。

出展者数が増えるので、ワークショップ、マルシェなどとテーマごとにエリア分けをして、訪れた人に分かりやすく伝わるようにしたいと思っています。

松澤さん:東京のIT会社と一緒に開発した南会津の林業について学べるアプリを、10月1日の林業祭の日にリリースするのにもぜひ注目していただきたいです。会場に貼られたQRコードで遊ぶことができます。

そして最大の目玉と言えるのが、南会津町の林業が最盛期だった約50年前のドキュメンタリーの上映エリアです。私もちょっと言葉にできない衝撃の映像で、大きなインパクトを与えられると思います。

かつての基幹産業の面影が薄れてしまった現状から、地域の産業としてブランド化するには歴史文化を知ることも大切と考えますので、林業祭を機にいくらかでも関心を持っていただければと思っています。

――NPO法人「みなみあいづ森林ネットワーク」の誕生から10年ですが、この間の成果と展望についてお願いします

松澤さん:林業を、山に近い方の仕事から消費者に近い方に向かった「川上」と「川下」と表現するとして、川上から川下まで多種多様な事業者が加盟しているのが私たちのNPOの強みです。伐採は伐採、製材は製材などと分けるのではなくて、上から下まで情報共有しながら連携してサプライチェーンとする仕組みを築いてきました。

地元産の木材を使おうという機運はだいぶ前からあり、言うのは簡単ですが、実際には障壁が多々あります。業者としてはコストと安定供給が何より重要で、ここをまずクリアできるようにしました。行政も補助金制度を設け官民協働で取り組んでいます。

消費者の側としては、長い間の国内林業の衰退から、そもそも地元産材を利用できるという発想になりにくいのは無理もないことですから、意識を変えていただくことからのスタートでした。

クロモジの植林は大きな可能性

松澤さん:地元の木材で家を建てるのが普通になるといいのですが、そこまで大きな買い物にいく前段階として、色々な工夫をしているところです。身近なところでは、デザイン性に優れた木の雑貨などはだいぶ認知されてきたかなと感じています。

今、特に力を入れているのはクロモジの植林です。広葉樹は伐採すると種からまた生えてきますが、人工林はそうはいきませんから植樹をするわけですが、次に利用できるまでに約50年もかかってしまいます。これだけの長い時間を経ても、それに見合う価格にはならないのですから、林業停滞につながってしまいます。

維持管理する費用の方がかかり過ぎて、放置されてしまうことになるからです。

そこでスギやカラマツを植えた隙間にクロモジを植えるプロジェクトを進めています。爪楊枝で知られる木ですが、薬用に精油にと利用価値が高く大きな需要があり、何よりいいのは、5年から7年ほどで収穫できるのですから、50年待つ間に10回転も可能です。

地元産クロモジのアロマオイルを製造販売している「一十八日」という会社は「きとね」のシェアオフィスを利用していて、耕作放棄地に植えた草花や樹木からの精油も開発しようとしています。

林業で成功というモデルはあまりないといわれているのですが、私たちの試みは福島県内だけでなく、他県からも注目されています。南会津モデルとして広げられたら、地域活性化への大きな貢献となります。がんばりたいと思っています。

――では最後に南会津町の魅力と八十里越道路への期待をお願いします。

松澤:南会津の魅力はなんといっても四季がはっきりしていて、それぞれの美しさ、楽しみがあることと、里山文化といいますか、自然と人の生活の距離の近さです。移住を決めたのもこの環境に惹かれたからです。

北海道に住んでいた時は、北海道の自然が一番と思っていたのですが、あちらは気軽に近寄れない雄大な自然、こちらは心地良い距離感の自然ですね。

ものづくりの三条エリアと近くなるという点で八十里越道路には期待しています。新たな交流人口が生まれ、地域の活性化つながるよう願っています。

 

南会津林業祭「森と木の日」(2023年10月1日開催)
会場/みなみあいづ森と木の情報・活動ステーション「きとね」
   南会津町田島字宮本東33-1
お問合せ/0241-64-5655
参加料金/入場無料


取材日/2023年9月05日
取材・執筆/北原広子
写真提供/みなみあいづ森林ネットワーク